東京高等裁判所 昭和50年(ネ)633号 判決
被控訴人は民法一九一条により占有の回復者として本件物件を占有していた控訴人に対し、本件物件の毀損滅失に因る損害の賠償を請求すると主張するのであるが、民法一九一条に謂う「占有者」とはあらゆる占有者を指称するものではなく、その規定の趣旨上回復者に対する関係で占有すべき権利つまり本権を有しない占有者を指すと解すべきところ、≪証拠≫によれば、本件物件の取付けを含むサウナ風呂設備工事は、前示認定の順次の下請関係の結果、被控訴人がイワシタ建設との契約に基づき、同建設の代表者岩下利郎と岩下建築の取締役岩下成雄の指示をうけて直接本件物件を控訴人のビルに搬入して取付け工事をしたものであり、これに対応して控訴人においては被控訴人の手によって試運転をしてもらう段取りまでつけて右引渡を受領したものであることが認められ、この場合控訴人と被控訴人間には直接の請負契約ないし売買契約は存しないにしても、被控訴人はイワシタ建設との契約上本件物件の占有を同契約から言えば第三者である控訴人に得させることを約し、他方控訴人においてこれを承認し、したがって被控訴人は自己の契約上の義務の履行として、かつまた控訴人に直接契約上の義務を負っている岩下建築の履行補助者の立場にも立って、本件物件を控訴人所有のビルに取付けて控訴人にその占有を引渡したものであり、以上の事実によれば、控訴人としては単に被控訴人から本件物件の引渡をうけるにとどまるばかりでなく、更にその所有権はいまだ被控訴人に属するとはいえこれを自己の営業用に使用収益することが必要であり、他方被控訴人においてもこのことを当然予定してこれを許容したとみるべきであるから、その間には使用貸借類似の法律関係が発生したというべきである。
更に≪証拠≫によれば、被控訴人はいまだ自己とイワシタ建設との間の右契約を解除したことはなく、また本訴提起(昭和四八年八月四日)に至るまで控訴人に対し所有権に基づく返還請求をしたこともなかったことが認められる。
以上によれば、控訴人の被控訴人に対する関係は、民法一九一条によって律せられるべき意味の占有者であるとは謂いがたく、したがって被控訴人の請求中民法一九一条を根拠とする請求は、その余の点について判断するまでもなく失当である。
(菅野 舘 安井)